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平成17年10月
◆「お国と五平」 池田友之丞
7年ぶり二度目の上演となります。谷崎潤一郎独特の一風変わった人間の情念の世界ですが、これが大正時代に書かれた作品であることに驚かされます。ただ、初めてのときは「やっぱり変わった人たちの変わった話だな」という印象があったのですが、この7年で世の中の情況が急変したのでしょう。ストーカーのような変態的で卑怯な行動をしておきながら、反省もなく悪いのはすべて人のせい、という無責任な友之丞の言動が、ごく身近なものに聞こえてくるのです。これは前回とは違う面白さになりそうだという手ごたえを感じながら、さらに役を自分の中に取り込んで、お客様にも共感していただける不思議な魅力ある一幕にしたいと稽古に励んでおります。
◆「口上」
さーて、今度はなにをしゃべるか・・・・・。
すべては観てのお楽しみです。
◆「河内山」  松江出雲守
二度目になります。最後に河内山に「馬鹿め!」と言われてしまう愚かな殿様ですが、それでも18万石の当主、冒しがたい品格と知性は必要です。殿様なりのわがままと、観ている方に納得していただける説得力は持たなければいけません。
それとこの芝居、近頃は最後の玄関先での「大膳はそれを知っていたのか、ハハハハハ・・・・。こんなひょうきん者に出られちゃあしようがねえ」にはじまる、見顕しのセリフばかり注目されがちですが、本来は上野の宮様の使いに化けたお数奇屋坊主の河内山が、たった一人で18万石の殿様を相手にどう渡り合うかという、書院の場こそ緊張感あふれる見せ場であるはず。そのためには、さすがの河内山も緊張を強いられる、松江出雲守の大きさ品格が必要であると考えるからです。
◆「白浪五人男」  南郷力丸
序幕では色奴、だんまりでは荒事にやや近い強い男の魅力、浜松屋では若党の侍、見顕されてからは磯臭い漁師上がりの兄貴分、蔵前では日本駄右衛門の手下であり弁天との兄弟愛、そして稲瀬川では華やかにどん尻を締めて、と変化に富んだ面白い役です。同じ人物なのに顔の色や、化粧の仕方まですっかり変わってしまうのは歌舞伎ならではです。
平成17年9月
◆21日/長唄「独楽売」千吉
久しぶりの上演になります。曲自体は岡鬼太郎作で古く、澤瀉屋さんが上演し舞踊曲として人気のある常磐津の「独楽」よりも古いのです。子供の頃、祖父と父で上演したことを思い出し、今回ひさびさに復活することを思いつきました。
常磐津の「独楽」は花柳流のものだから他流では上演するな、という理不尽なプレッシャーがあるなか、なんとかこの長唄の「独楽売」を楽しい作品に仕上げて人気曲になるといいなと工夫を凝らしているところです。
◆22日/長唄「連獅子」狂言師右近のちに 親獅子の精
父と何度も上演した思い出深い作品です。それを今回初めて息子巳之助と勤めます。月日というものは確実に流れ行くもの…と分かっていても、やはり感慨深いものがあります。さんざん親に心配をかけた私が、子供のことを思いハラハラドキドキする…。人の世の思いは順繰りにわが身に巡ってくるのですね。そうしたいろいろな思いを積み重ね、厚みのある親獅子にできればと思っています。
平成17年8月
◆「金閣寺」松永大膳
まったくの初役です。初役どころかこの芝居に出ることも初めてです。私の育った菊五郎劇団では出ない芝居でしたので、しょっちゅう舞台を見たという記憶も、この芝居の空気をよく吸って知っている、というわけでもありません。
白鸚のおじさんの大膳の凄みのある大きさ、成駒屋のおじさんの雪姫のたおやかさなどが、わずかに記憶の片隅にある程度です。しかし、自分で演じるにあたって改めて台本を読んでみると、大膳というのは魅力溢れる役です。国崩しの大敵でありながら、美の象徴である金閣に立て篭もり、美女雪姫を桜の木にくくりつけその風情を愛しむという、加虐的ではあるものの独特の美学を持つ色気の必要な役です。それでいて一幕を通じて圧倒的な存在感で君臨し続けなければならない大きさも要求され、役者としては挑戦意欲、征服意欲を掻き立てられる大役で、身震いのする思いです。
◆「伊勢音頭恋寝刃」福岡貢
いずれはと思っていましたが…初役です。これまでいろいろな方の貢を拝見してきました。上方と江戸、またなさる方それぞれでその姿はじつにさまざまです。なかでは先代勘弥のおじさんの、ちょっと頼りなげでそれでいて怒りっぽく、立派な侍にはなりきれない適度な軽さのある貢の姿が印象に残っています。「御師」という伊勢独特の神官侍の表現の加減がまず難しいところです。作中の人々は、思慮に溢れた深い人間というよりも、どことなく粗忽なうっかりした人たちが多く、また作そのものも穴の多い完成された名作というものではありませんが、それだけに夏芝居らしい風情や、下座の合方による芝居らしい雰囲気、そしてなにより役者の魅力にかかってくる割合が多い作品といえます。
肩の力を抜き、共演のみなさんと息を合わせて、気持ち良くいじめられながら(笑)、歌舞伎の楽しさを味わっていただける舞台にしたいと思っています。
平成17年7月
◆「源太」梶原源太
三代目三津五郎が初演した変化舞踊のひとつです。鎌倉時代の武将梶原源太が、東国武士にしてはめずらしく風流を解する若武者で、一ノ谷の合戦に箙に梅が枝を挿して出陣したという故実をもとに、合戦の物語をするうちにそれが廓の男女の痴話話に変化していくという、いかにも文化文政期らしい発想の、洒落た曲です。
風流男の源太の色気、合戦の凛々しさ、梅が枝になって話す口説など、凛とした中にもやわらかさが求められる難しい踊りです。20代の初めの頃、いくらお稽古をしていただいてもうまくいかなかった思い出がありますが、30年近く経ってどう変わっておりますか…。
舞踊会では三回踊っていますが本興行で演ずるのは初めてで、歌舞伎の舞台に登場するのは曾祖父七代目以来48年ぶりになります。
◆「口上」
5月の中村屋さんの襲名では「芝居前」でしたので、口上でお祝いを述べるのは今回がはじめてです。
思い出があり過ぎるほどあるふたりの間柄ですので、何をお話しようか、その題材をしぼるのに苦労しております。
◆「宮島のだんまり」悪七兵衛景清
一座総出演の超豪華なだんまりです。きっと舞台に並びきれないのではないのでしょうか…。
昼に源氏の梶原源太、夜に平家の悪七兵衛景清を同じ月に演じるのも、偶然とはいえ実に面白い取り合わせです。
まったくタイプの違う武将に見えるよう、工夫をしてみようと思っております。
◆「研辰の討たれ」平井市郎右衛門
5月の歌舞伎座に続いての上演ですが、舞台の大きさがまったく違いますので、装置の具合、役者の距離感など、またまた違う発見のある作品になりそうです。
個人的には、例の仕掛けを踏みそうになりスキップになる瞬間、前回は蚊に足を刺された思入れで演じておりましたが、今回新たに大阪バージョンで、違うパターンでやってみようかと思っております。さてどうなりますか、乞うご期待!
平成17年5月
◆「芋堀長者」芋堀藤五郎
岡本柿紅さんが描き六代目菊五郎七代目三津五郎が初演した一連の舞踊劇のひとつです。「身替座禅」や「棒しばり」は狂言から取材したものですが、この芋堀長者はそうではないようです。六代目のあと、勘三郎のおじさん、松緑のおじさんも演じていらっしゃいますが、昭和35年以来上演の途絶えていた作品です。もちろん私も観たことがありません。その昭和35年の上演のとき、父が一日だけの「子供歌舞伎」でやったことがあるらしく、家に録音したテープが残されていました。それで、どういう流れで上演していたか、および曲の様子がはっきり分かったので、復活できたというわけです。
ただ「馬盗人」のときもそうでしたが、音はあっても当時はビデオはありませんので、振りはまったく新しく付け直さなければいけません。今回も三津弥さんと相談しながら新しく考えました。なんとか皆さんに喜んでいただける作品に仕上げ、歌舞伎の財産として再演が可能なものにしなければと、ない知恵を絞っています。
◆「芝居前」大和屋巳之吉
口上の代わりに芝居前に男伊達女伊達が両花道に勢揃いして、ひと言づつお祝いを述べるという趣向です。じつに華やかで贅沢な一幕です。ただ私は背が低いので見栄えが悪く、女伊達で出してもらえばよかったな、と思っています。(笑)
◆「髪結新三」手代忠七・家主長兵衛
忠七も大家さんも初役です。二枚目と強欲な大家さんの二役を変わるというこの趣向は、13代目勘弥の名演が伝説に残り、そのあと14代の勘弥のおじさんも勤めていらしゃいますが、今回新勘三郎さんのたっての頼みで久しぶりの趣向とあいなりました。なよなよとした二枚目の忠七が新三にいたぶられたあと、今度はガラット変わって因業な大家で登場し反対に新三をやりこめるという趣向ですから、見ているお客さまにも、演じている役者にとっても、変化に富んだ楽しい趣向です。ただこの大家さん台詞が多く、これまで皆さん四苦八苦している姿を間近に見ていますので、いったいどうなりますことか・・・・。また忠七は、昭和42年に先代左團次のおじさんがお演りになったとき客席で母と拝見していて、母に「今まだあんたには分からないだろうけど忠七というのはこういうものだからしっかり見ておきなさい」とつぶやかれた思い出があります。そのせいもあってか、そのときのおじさんの忠七がいまだに鮮明に頭に残っています。あの江戸和事の味に少しでも近づければ、と努力をしております。
◆「研辰の討たれ」平井市郎右衛門
再演です。しかし今回は襲名披露でもあり演出は野田さんですから、また心を新たに勤めたいと思っております。
スピーディーな展開、笑いと風刺をおりまぜおおいに客席を沸かせながら、最終的には重い主題が浮かび上がり、ぴーんと張り詰めた緊張感で客席をぐいぐい引っ張っていく、その野田さんの手腕には舌をまくばかりです。あえてこの作品を披露狂言に選んだ新勘三郎さんの心意気に負けぬよう、憎らしくも可愛いご家老さまを造形したいと思っております。
平成17年4月
◆「道元の月」道元禅師
数ある宗教家の中でも、アクティブな日蓮などと違い動きが少なく、永平寺でひたすら座禅をされていた方ですから、役者としても内面の充実を測られる、非常に難しい役です。幸い立松さんの台本が、本来は分かりにくいであろう内容を、聞くものの耳に届きやすい、簡潔で美しい言葉で描かれておりますので、ひとつひとつの言葉を大事に、皆様の心に染み透っていくように演じたいと思っております。無言で座禅をする姿に、道元の崇高な精神世界が清らかに感じ取っていただけるように、今回も心をこめて演じます。
◆「お祭り」鳶頭
三代目三津五郎が初演した三段返しの舞踊「再茲歌舞伎花轢(またここにかぶきのはなだし)」の中からひとつの演し物として発展したのが現在の「お祭り」です。鳶頭の扮装で、江戸前のスッキリとした踊りを、からみを使った賑やかな形の舞台でご覧いただきます。観ているお客様にも私と同じ気持ちの良さを感じていただけるように、勤めたいと思っております。
平成17年2月
◆「五斗三番叟」九郎判官義経
子供のころから故松緑のおじさんの五斗兵衛は何度も拝見しておりましたが、出演するのは初めてです。
この義経という役は、あまり仕所がなくすわっているだけの事が多く、ともすれば何も考えていない人に見えがちですが、どっこいそこは御大将、頭のなかではいろいろな考えをめぐらしていることが「義経千本桜」を見ても分かります。ところがこの「五斗三番叟」の義経だけは、何も考えていないように見えて、本当に何も考えていないという、珍しい義経です。それというのもこの芝居が、義経の時代の名前を借りてはいるものの、物語の本筋は大坂の陣にあって、五斗兵衛は後藤又兵衛、義経は豊臣秀頼ですから、他の義経役とはちょっと毛色が違うのはそのせいだと思われます。ですからあまり深い人物にならぬよう、気短な大将のわがままさが出せれば、と思っております。
◆「どんつく」荷持どんつく
一昨年に続き二度目です。そのとき自分で化粧をした顔を見て、あまりにも父に似ているので、自分でもびっくりしました。そのそっくりな顔を見て父を偲んでいただけましたら幸いでございます。今回は父の追善ということで太夫に菊五郎さん、大工に仁左衛門さん、門礼者に左團次さん、白酒売に魁春さん、という諸先輩のご出演を得、その他にも時蔵さん以下花形の皆さんが顔を揃えて下さり、豪華な顔ぶれとなりました。父も泉下で喜んでいることと思います。また15歳になった巳之助も子守で出演させていただきます。昭和46年に上演されたとき、私もやはり15歳で子守を勤めておりました。これもなにかの因縁かと思います。七代目以来、家の芸として大切にしてきましたが、私はどちらかといえばテキパキと踊る方で、このどんつくのような味わいを出せるのはまだまだ先のことかと思われますが、他の方がおやりにならないので私がやらなければ歌舞伎のレパートリーから消えてしまう踊りです。精一杯努力して、田舎者のおかしみと味わいが出るように心がけたいと思っております。
平成17年1月
◆ 「盲長屋梅加賀鳶」日蔭町松蔵
初役です。若い頃から勢揃いの鳶には幾度となく出ていますが、いよいよ松蔵を勤めることになりました。
町の皆から「松がしら」と尊称されている、頼りになる鳶頭の貫禄と色気、道玄を相手にもしていない度量の大きさが必要な役です。故白鸚のおじさんの男らしい姿が目に残っています。今回先輩の幸四郎さんがお相手ですので、ひけをとることなく、江戸の男のいさみな格好よさを体現できれば、と思っています。
◆ 「鳴神」鳴神上人
久しぶりの上演になります。東京では平成2年の浅草以来15年ぶり。歌舞伎座では初めてです。
正月にこのような、理屈ぬきのおおどかな歌舞伎味溢れる芝居をやれるのは幸せです。
初演のとき、自分には合わない役だと固辞していたのを、「どうしてもやってください!」と言われ、「そこまで言うなら失敗しても自分せいじゃないや、やらせるほうが悪いんだ!」、と開き直って演じたら、それがことのほか好評で、その後弁慶や熊谷など骨太な役に挑むことに繋がっていった、思い出深い役です。
ひさびさですが、歌舞伎座の大舞台に負けぬ、荒事の大きさと勢いで、皆様の新年を寿ぎたいと思っております!
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